むかーし昔、日本では栄養バランスをとるために1日30品目食べましょうと言われていました。
栄養を学ぶ学生でだった私も、大学でそのように学びました。献立作成では、ずいぶん四苦八苦したものです。
それから30年が経ち、今では「主食・主菜・副菜を基本に食事バランスを」に変わっています。
働く女性が多い現在、献立を考え、食材を調達し、調理をするという時間もなく、調味料は含まないものがあるなどややこしいのです。
これらは、両方とも厚生労働省が出した指針です。言い方は変わりましたが言いたいことは変わっていません。
なぜ、1日30品目でなくなったのか、栄養バランスにまつわる雑学などを管理栄養士歴20年の私が解説します。ぜひ最後まで読んで下さいね。
栄養バランスをとるため【1日30品目】は必要ない
健康を維持するために、1日30品目を摂ると栄養バランスが摂れることを知っている人は多いと思います。
しかし、1日30品目は必要ありません。そもそも、30という数字に意味はなく、「より多く」摂取するための数字です。
現在、厚生労働省が出している食生活指針は「主食・主菜・副菜を基本に食事バランスをとりましょう」に変わりました。
これら2つの指針の言い方は違います。しかし、言いたいことは同じなのです。
栄養バランスをとる...言うのは簡単ですが、実践するのはなかなか難しいことですね。
1日30品目摂取の目的とは
厚生労働省が毎年行っている国民栄養調査の結果を見ると、昭和50年にはカルシウム・ビタミンA、ビタミンB2が充足率90%でそれ以外は充足できています。
この頃には、すでに過剰摂取が問題となりつつあったようです。
そこで、生活習慣病などの予防の観点から、1日30品目摂取することで栄養バランスをとろうとしたようですね。
1日およそ30品目摂取することで、カルシウム以外の栄養素が充足できると考えられていたことがこの指針が出された理由です。
1日30品目摂取の指針が出されたのは1985年です。バブル経済直前のその頃には、すでに食環境は飽食の時代に突入していたのかもしれません。
主食・主菜・副菜を基本に...の意味
現在の日本人の栄養摂取状況は、偏りが見られます。栄養不足なのに、肥満という人が多いのです。
これは、麺類やどんぶり、お好み焼きなど単品で済ませることの結果です。主食、主菜は摂れているが、副菜が摂れていないのです。
そのためにはどうするか...「主食と主菜、副菜でバランスを取ろう!」ということです。
主食はごはんやパンで糖質を、主菜は肉や魚などのタンパク質を、副菜は野菜や果物でビタミン・ミネラルを多く含みます。
難しいことは考えず、簡単に栄養バランスを摂ることができる、いいやり方ではないかと思います。
言い方は変えましたが、できるだけ多くの食材を食べてバランスを摂ることが大切であることに変わりはありません。
1日30品目摂取で起こる過剰摂取
1日30品目摂取することで、エネルギー・タンパク質・脂質の過剰摂取になる人がでてきました。
厚生労働省は、ひっそりとこの指針を削除しました。
たくさんの食材を摂れば、バランスがとれるほど簡単なものではないのですね。
私たち管理栄養士は、食品構成表といって食材をいくつかの食品群に分け、それぞれどのくらいとればバランスがとれるかの目安を作っています。
栄養バランスをとるには、もう慣れしかないような気がします...
1日30品目は働く主婦には負担でしかない
管理栄養士の仕事で献立作成があります。仕事でも、なかなか30品目を満たすのは難しいです。
30の中に調味料は含みませんし、なによりお金が結構かかります。
共働きの家庭が多い現在でも、家族の健康を考えて体にいい食事を作りたい人も多いです。
しかし、忙しすぎてこの「30品目」が精神的負担になるといいます。
深く考えずに、主食、主菜、副食をそろえて食事バランスをとるほうが現実的かもしれませんね。
栄養バランスは食べ合わせも大切
みなさんは、普段から健康のために食べ合わせを考えて献立を考えていますか。
鉄分の栄養所要量は18~49歳男性で7.5mgですが、体が必要としているのはその10分の1なのです。
どういうこと?と思いますよね。栄養所要量というのは、栄養素の吸収率を考慮して設定されています。
ビタミンAの吸収率は約70%、カルシウムは約40%と摂取した栄養素がすべて吸収されるわけではありません。
また、食べ合わせの相性もあり、お互いの吸収率を上げることもあれば、下げることもあります。
栄養素の相乗作用
骨を丈夫にするためにはカルシウムが必要とは知られたことですね。
だからといって、カルシウムだけをたくさん摂取しても、効率的に吸収できないのです。
このように、栄養素にはお互いに吸収を促進する作用があるのです。
カルシウムの吸収を促進するには、「ビタミンC」や「タンパク質」を一緒に摂ることが必要があります。
この作用を意識することで、効率よく栄養を摂取するよう心掛けてみませんか。
栄養素の吸収促進作用
鉄分→ビタミンC、タンパク質を一緒に摂る
タンパク質→ビタミンB6を一緒に摂る
カルシウム→ビタミンD、ビタミンC、タンパク質
ビタミンA、E→脂質を一緒に摂る
栄養素の拮抗作用
栄養素の吸収を促進する関係があれば、阻害する関係もあります。
また、カルシウムを例にしますが、ほうれん草に含まれるシュウ酸や食物繊維は、カルシウムの吸収を阻害します。
貧血で通院している場合、ビタミンB12が処方されることもありますね。できれば、薬やサプリメントではなく、食材で栄養補給したいものです。
栄養素の吸収阻害作用
リン→カルシウムの吸収を阻害(加工食品には多く含まれます)
タンニン→鉄の吸収を阻害(貧血の人は、注意しましょう)
栄養素の連携プレー
昔、マルチビタミンのCMで、よくできたCMだなあと感心したことがありました。
女性が歩いているのですが、マルチビタミンを飲んで元気なので、元素記号が女性の周りをぐるぐるスムーズに回っています。
ところが、サプリメントの飲み忘れだったと思いますが、栄養素が体に不足すると元素記号がパラパラと足元に落ちる...というものでした。
よく、栄養バランスは歯車に例えられるのですが、栄養素には相互作用があります。
どれか一つでも不足するとうまく回らなくなるということを表現したものでしょう。
サプリメントのように、この食材1つですべての栄養素を補給できる、そんな夢のような食材があれば、何も問題ないのですが...
栄養バランスがとりにくい現代の食環境
昔の食事の内容は、ご飯、煮物、味噌汁、漬物という形がベーシックだったようです。
しかし、とても忙しい現在人は、家で作らなくてもスーパーに行けば総菜も売っているし、外食も安くできます。
外国の食文化も入ってきて、栄養バランスはとりにくくなっているように思います。
だからこそ、「主食・主菜・副菜を揃えて」という食生活指針には納得です。
加工食品や外食で栄養素の損失が大きい
加工食品は、高温処理でビタミンの損失が大きく、外食も同じことが言えます。
また、長期保存のための添加物も気になるところです。
そして、忙しさのため、単品で食べることも多いのではないでしょうか。
うどん、どんぶり、お好み焼きなど手軽にパパっと食べられるものは便利ですが、栄養不足なのに肥満...という問題点を生み出していることも知っておきましょう。
栄養バランスのとり方【簡単なメニューでいい】
先ほども言いましたが、栄養バランスをとるのは本当に難しいです。
1回くらい整えるのは簡単ですが、継続するのが難しい。健康を維持するには、継続しかありません。
料理研究家の土井義晴先生が提案された「一汁一菜」が、無理なく続けられていいのではないでしょうか。
みそ汁をたくさんの具材を使って作るだけで立派な一品ですよ。
【重要】栄養バランスだけでない食品数を多く摂る目的とは
栄養バランスをとること以外に食品数を多く摂る目的があるの?と思う人は多いと思います。実は、とても大きな理由がありました。
リスクの分散
2008年、中国製の餃子を食べた人に中毒症状が出るという事件がありました。この餃子からは、殺虫剤(農薬)が検出されています。
また、2013年に日本でも冷凍食品加工会社で、契約社員が農薬を混入するという事件もありました。
もしかすると、こんなものを口にしてしまうこともあるかもしれません。
たとえば、餃子を夕飯にしたとして、お酒が好きな人なら酒のつまみに餃子だけ食べることもあるでしょう。
そうすると、餃子の摂取量が増えることになり、必然的に農薬の摂取量も増え、より中毒症状も強く出るということです。
そこで、ご飯、焼き魚、ほうれん草の胡麻和え、餃子、みそ汁と食品数を多く摂ることで、農薬で汚染された餃子の数も減ることになります。
薬品による汚染だけではありません。野菜などに含まれる農薬も、同じことが言えます。
〇〇産の輸入野菜は農薬が多いが、地場産の野菜、その他様々な産地の食材を使うことでリスク分散になります。
まとめ
- 栄養バランスを取るために1日30品目は必要ない
- 主食、主菜、副菜をそろえることを目標にしよう
- できるだけ多くの食材を使う方が栄養バランスはとりやすい
- 栄養素はたべたら全部吸収されるわけではない
- 食べ合わせで栄養の吸収率を上げることができる
- ごはんと具だくさんみそ汁だけでも十分です
- 食材を多く使うことは中毒や農薬のリスク分散になる
日々忙しい中、食事づくりをがんばっているのですね。無理をせずできることから始めましょうね。