甘酒は「飲む点滴」と呼ばれ、江戸時代にいは夏バテ防止の飲み物として親しまれてきました。
でも、ここで一つの大きな疑問が湧きます。
現代ではヨーグルトメーカーなどの電気機器を使って「60℃」を保つのが当たり前ですが、電気がない時代にはそんなことはできません。
「昔の人はどうやって作っていたんだろう?」「今の甘酒と同じ味だったのかな?」
この謎を解き明かすため、私は実験してみました。
味や姿にどんな違いが出るのか、「機械で温める現代の方法」と「キッチンにそのまま置く昔ながら(?)の方法」で。
実験のきっかけ:昔ながらの「常温」で作る甘酒への挑戦
「昔の人はきっと、常温で甘酒を作っていたに違いない……」
そんな素朴な疑問が、今回の実験の始まりでした。 最近ではヨーグルトメーカーなどの便利な道具が当たり前ですが、あえて「道具に頼らない作り方」を試してみたくなったのです。
とはいえ、米麹は決して安いものではありません。失敗のリスクを考えると少し勇気がいりますが、「一度、試しにやってみるか」と準備を始めました。
比較実験の条件
今回は、同じ条件で違いをはっきりさせるために、「常温」と「ヨーグルトメーカー」の2パターンを用意し、試料の量は同じに揃えました。
- 味の違いはどう出るのか?
- 発酵には何日かかるのか?
正直なところ、発酵日数の予測はまったく立っていません。
専門家の教えと私の予想
後から知ったことですが、発酵学の権威である小泉武夫先生の本には、「お湯を使えば一日でできる」といった内容もありました。
これには驚きました。 「塩麹でさえ1週間はかかるのだから、常温ならもっと時間がかかるはず」と思い込んでいたからです。
自分の目と舌で確かめたい
そもそも、60℃という温度をキープせずに作った甘酒は、私たちがよく知っているあの「甘い甘酒」と同じ味になるのでしょうか?
それを自分の目と舌で確かめるべく、いよいよ実験スタートです。
予想を裏切る「発酵のスピード」
実験を始めてすぐに、大きな勘違いに気づきました。
以前作った「塩麹」は、塩が入っているおかげで腐らず、1週間ほどかけてゆっくり熟成します。
しかし、塩が入っていない甘酒は、驚くほど変化が早かったのです。
- ヨーグルトメーカー: 8時間で甘くなりました。
- 常温の場合: 「何日もかかるだろう」という予想に反して、1日目にはもう甘みが出て、3日目には泡がシュワシュワと湧き上がってきました。
塩というブレーキがないだけで、これほどまでに微生物の動きが早くなるとは想像もしていませんでした。
pH試験紙が教えてくれた「味の正体」
一番の驚きは、理科の実験で使う「pH(ピーエイチ)試験紙」の結果でした。
| 調べたこと | A:ヨーグルトメーカー (60℃) | B:キッチンの常温 (20〜25℃) |
| pH試験紙の色 | 変化なし | きれいなピンク色! |
| 見た目 | 変化が少ない | 黄色っぽくなり、泡が出た |
| 味 | 安定して甘い | 酸味も甘味もある |
ヨーグルトメーカーで作った方は、温度の力でお米を甘くした「化学反応」の結果。
でも、常温で置いた方は試験紙がピンク色に変わりました。これは液体が「酸性」になり、発酵した証拠です。
目に見えない乳酸菌などが活動して、中身をどんどん作り変えていたのです。
常温とヨーグルトメーカーでは、同じ甘酒でも少し味の違いを感じました。
考察:昔の人は「別の飲み物」を飲んでいた?
今回の実験で、「昔の甘酒」の姿がぼんやりと見えてきました。
電気がない時代、常温で作られた甘酒は、現代のような「ただ甘いだけの飲み物」ではなかったはずです。
色が黄色っぽく、少し酸味があり、小さな泡がポツポツと立っている……。そんな「生きた発酵」の姿です。
酸っぱくなることで悪い菌が繁殖するのを防ぎ、同時にその酸味が夏の疲れを癒やしてくれていたのでしょう。
私たちは「甘酒」という一つの名前で呼んでいますが、昔と今では、実は全く違うものを飲んでいたのかもしれません。
まとめ:試験紙のピンク色が教えてくれたこと
「電気がない時代はどうしていたのか?」という疑問から始まった今回の実験。
塩というガードがない中で、微生物たちがお米を分解していくスピードは、私の予想をはるかに超える力強さでした。
pH試験紙が示した鮮やかなピンク色は、機械に頼らずとも、自然の力だけで飲み物を作り上げていた先人たちの知恵そのものに見えました。
現代の甘い甘酒も美味しいけれど、あの泡と酸味の中にこそ、江戸の人たちが愛した「本物の甘酒」のパワーが隠されていたのだと感じます。