精進料理は肉や魚、卵などの動物性食品がご法度なのはよく知られていますが、本当にタンパク質不足なのでしょうか。
実は、植物性食品で充分タンパク質を補うことができる健康食ですよ。
あなたはマクロビオティックなどの食事法に興味があるのでしょうか。
それとも、神社仏閣への関心から仏教を学ぶ中で興味を持ったのでしょうか。
修行僧などが精進するための食事ということで、質素でありつつ何か特別な感じがしなくもありません。
この記事では、座禅や写経にのめり込み、毎週土日にお寺に通いつめた経験をもち、かつ管理栄養士である私が精進料理について解説します。
精進料理とは
精進料理とは、中国から仏教とともに伝わった料理です。
「精進」には、仏道の修行にいそしむことで、身を清め、行いを慎むことといった意味があります。
この精進料理が、健康食として注目されています。
日本人の食生活で摂取量が多いコレステロールは少なく、摂取しにくい食物繊維が多いなどメリットは多いです。
では、精進料理はどんなものかを解説します。
仏教の戒律に基づいた料理
「殺生をしない」「煩悩を避ける」という戒律に基づき、自分自身を厳しく律する修行僧のための必要最低限の栄養を摂取できる食事です。
そして、味や調理法、色などにも注目して作られています。
5つの味、5つの調理法、5つの色を組み合わせることでうまくバランスが取れると考えたのかもしれませんね!
栄養学とは、分析の技術が発達することでできた新しい学問なのですよ。
お釈迦様が生きていた2,500年前からバランスをとることを考えていたのはすごいことです!
精進料理で使う食材
- 野菜
- 豆類...大豆、大豆加工品
- きのこ類...しいたけ、しめじ、まいたけなど
- 海藻類...わかめ、昆布、ひじきなど
精進料理で避ける食材
- 肉、魚、卵などの動物性食品...殺生や煩悩(欲望、欲求、執着)を避けるため
- 五辛・五葷(ネギ、にんにく、らっきょう、のびる)...辛味や臭いが強く、血流を促すため、憤怒や興奮につながると考えられる
- 炒め油は植物性油脂を使用
- 出汁も動物由来のものは使用しない
私が食べた精進料理
京都に行くと、多くの精進料理の店があります。
その中でも、大満足だったのが、大徳寺の開山法要で提供された食事です。
法要が終わった後、部屋に通されて、雲水さんたちが多くの法要客に忙しく配膳して下さいます。
料理はもちろん精進料理ですが、量がとても多かったように思います。
焼き豆腐の煮物はとても大きく、下にはやわらかく大きな昆布が敷かれていました。
味噌汁は大根など具沢山の白みそ仕立てで、中に辛子が入っており、途中でかき混ぜると味変ができるというおまけつき。
全体的にボリュームがあって、男性でもおなかがいっぱいになりそうで、最低限の栄養量が摂取できそうな献立でした。
タンパク質不足は想像できません...
精進料理はタンパク質不足の問題なし
特別養護老人ホームで管理栄養士をしていると、高齢者の栄養摂取基準を作ります。
ほとんど動かない高齢者でも、タンパク質をしっかり摂取するために、肉や魚、卵はしっかり献立に組み入れています。
若い修行僧にとって、タンパク質摂取はとても重要なものですが、精進料理の中身はいったいどうなっているのでしょうか。
肉や魚の代わりに何を使う?
精進料理は、バランスが整った健康食と言われています。
そういうことは、肉や魚、卵を使わなくてもタンパク質がどこかで摂取できているということですね。
一番のタンパク源は、やはり大豆などの豆類やその加工品です。
また、お寺の食事では、ごはんに麦が入れられていることもあるようです。
昔は、ごはんより麦のほうが安かったこともあり、必ず麦が混ぜられていたようですが、現在は米よりも麦のほうが高いそうです。
それでも、あえて麦を混ぜているお寺もあると聞きます。
麦の栄養成分を調べたら、食物繊維が5倍もありました。しかし、タンパク質は米と変わらない。
では、あとは何が原因と考えられるか。そういえば、昔はごはんの摂取量そのものが今の2倍あったと聞いたことがあります。
昔に比べて、米だけでなく豆類やそれらの加工品の摂取量も減少しているのでしょう。
そう考えると、精進料理の栄養バランスが整っているという話は、納得できますね。
人気レシピのタンパク質量を計算してみる
私が食べた大徳寺の精進料理。献立のほとんどを忘れてしまいましたが、毎年同じような内容と聞いていました。
どなたかのブログから、やはり同じような献立なので、その献立でタンパク質量を計算してみることにしました。
献立
- ご飯...150g
- 焼き豆腐の煮物...150g
- 白みそ仕立ての味噌汁
- 白和え
- 昆布の煮物
- たくあん
- 酒まんじゅう
タンパク質を多く含む食材のみでざっくり計算してみます。
ご飯4.2g、焼き豆腐14g、味噌汁0.9g、白和え2.3gで合計21.4gです。
1日の蛋白質摂取推奨量は、18~64歳男性で65g、18歳以上の女性で50gなので、よく摂取できていると思います。
昔は、ご飯の摂取量が2倍あったことを考えると、25.6g摂取できることになります。
ご飯の量と大豆・大豆加工品の摂取量で、タンパク質摂取量が決まるといっても過言ではないでしょう。
精進料理の人気レシピをつくってみる
私たちが日頃、口にする料理は栄養バランスが偏っていることが多くなっています。
私が管理栄養士として働き始めたとき、献立作成でずいぶん苦労したのですが、どうしても脂質の量が基準より多くなっていました。
その時に、いろんなレシピをかき集めて、「うなぎのかばやきもどき」を本気で献立に組み入れ、作ろうと思っていましたが...
当時の私には、難しかったですね。今であれば、大丈夫なのですが...
しかし、それほど難しくないレシピもあるので、ぜひ作ってみてはいかがでしょうか。
精進料理の簡単レシピ
精進料理は、手間がかかるイメージが強いですよね。
しかし、一度作ってみると意外とそうでもありませんよ。
私が老人ホームの厨房で働いていた時によく作っていたのが、手作りがんも(ひりょうず・ひろうす)です。
木綿豆腐にひじき、枝豆、人参、しいたけなどを入れて混ぜるだけです。あとは味付けをして、形を作って油で揚げるだけです。
豆腐料理ではありますが、油で揚げているのでしっかりコクがあってとてもおいしいので、ぜひ作ってみてくださいね。
つくるときの心構え
食材に感謝し、大切にしましょう。無駄にせず、使い切るようにしましょう。
ここに、道元の言葉を紹介します。
道元の言葉
調理には3心が大事
- 食べる人を思う心
- 作るまたはもてなす喜びの気持ち
- おおらかな心←とても大切、焦ると失敗します
調理での注意点
作る過程も重要です。調理に没頭して取り組みましょう。
調理を雑務として取り組むか、修行として取り組むかでその後の本人に大きな違いが出てきます。
ヴィーガンやベジタリアンとの違い
動物性食品を避ける点は同じですが、元になる考え方が違います。
- 精進料理…仏教の戒律に基づいている
- ヴィーガン、ベジタリアン…健康面や宗教的背景から生まれた
私は、マクロビオティックを学んだことがあるのですが、その時も精進料理と似ていると思いましたが、元になる考え方が違うのかもしれません。
まとめ
- 精進料理は、栄養バランスの整った健康食である
- 肉や魚、卵は使えないが、タンパク質不足の心配はない
- 昔は現代と比べてごはんや豆類・その加工品などの摂取量が多かったため、タンパク質摂取は多かった
簡単なレシピから精進料理を取り入れてみませんか。体調不良があれば、変化があらわれるでしょう。
お寺で仏教の世界を垣間見るのはとても楽しく、勉強になりました。座禅、写経、暁天、灌仏会、ろう八(ろうはつ)...
お寺での食についてもまたしかりで、暁天のあとの粥座(しゅくざ)など作法も含めて学ぶが多かったです。
ほかにも紹介したいことがたくさんありますが、またの機会に。