私の研究ノートは、地域が抱える「もったいない」や「困っている」という食の課題を、探求を通して解決していくための記録です。
毎年、全国の酒蔵では、酒米の約4割が酒粕となり、処理に困っているという現実があります。
栄養の宝庫である酒粕を、ただ余らせてしまうのはあまりにも惜しい。
しかし、この酒粕を苦手とする人は多く、その独特の風味やアルコール臭が消費の壁となっています。
私は、酒粕の消費を増やし、酒蔵の課題を解決するため、万人受けするレシピの開発に着手しました。
その動機となったのは、私自身が経験した決定的な失敗でした。
はじめに:なぜ、私は酒粕を研究するのか
決定的な失敗体験:酒粕ティラミスの教訓
私は、お酒が苦手でありながら粕汁だけは大好物です。この矛盾した感覚が、私の研究の出発点となりました。
酒粕ティラミスの講座を受けた際、蒸して充分にアルコールが飛んでいるはず。
それなのに、何回作ってもアルコール臭が強く残ってしまい、大きな挫折を味わいました。
ただ、お酒が好きな人にはおいしかったようですが...私はお酒が苦手な人でも、おいしいものを作りたい!
この失敗から、私は一つの疑問を持ちました。
加熱時間が短くて100度で蒸す工程では、酒粕の旨味を活かすどころか、アルコールの風味を強く残してしまうのではないか?
研究計画:濃厚なコクと長時間加熱への移行
失敗の分析:ティラミスクリームの「淡白さ」の限界
ティラミスの失敗を分析すると、ティラミスクリームの材料である火入れ酒粕クリームに加えた絹豆腐は淡白でほとんど味がない。
酒粕のアルコールや臭いを打ち消す「盾」になれなかったことが原因ではないかと考えました。
酒粕が苦手な人たちを切り捨てないためには、加工方法そのものの見直しが必要だと痛感したのです。
最初のターゲット:酒粕チーズケーキの可能性
失敗の教訓を踏まえ、私は研究戦略を「長時間加熱」と「濃厚さによる包み込み」の二段構えに定めました。
絹豆腐の淡白さの反省から、クリームチーズの濃厚な「コク(脂質)」なら、酒粕の風味やアルコール臭を力強く包み込み、抑え込めるはずだと仮説を立てました。
さらに、アルコール分がしっかりと飛びやすいベイクドタイプのチーズケーキを選びました。
【実験開始】:「酒粕を増やし続ける」反比例作戦へ
「美味しく食べられる」という土台ができた今、ここからが酒蔵の課題解決に向けた本番です。
酒粕の消費量を増やすため、私は酒粕とクリームチーズの量を反比例させて、どこまで美味しく食べられるかを実験していきます。
基本レシピと酒粕増量検証
酒粕チーズケーキ基本レシピ
【材料】
- 生クリーム...100cc
- クリームチーズ...200g
- 酒粕...50g
- レモン汁...大さじ1
- グラニュー糖...70g
- 卵...1個
- 薄力粉...大さじ3
- ビスケット...50g
- バター...30g
基本のレシピは、もちろんおいしい。酒粕の風味もほぼありません。普通のチーズケーキと変わりません。
酒粕をどこまで増やせるか。実験は、次の二つのパターンで、限界に挑戦します。
実験パターン
- パターン2: クリームチーズ 150g : 酒粕 100g
- パターン3: クリームチーズ 100g : 酒粕 150g
実験結果と考察:驚くべき「旨味の境界線」
反比例作戦の結果と「限界」
味の判定は、ご近所のみのるさん、かずえさんご夫妻に依頼しました。
みのるさんは、どちらかというとお酒は得意ではありません。かずえさんは、お酒が大好き。一人晩酌もなさいます。
お二人に試食していただいた結果、酒粕100gでは言わなければ酒粕が入っているか分からないとのことでした。
酒粕が150gも入ると、さすがのお酒好きなかずえさんでも、ちょっとアルコールが強いかなという印象のようです。
私も、味見をしてみました。数口食べた程度ではそれほど違いがわかりませんでした。
しかし、ホールの1/8を食べると、だんだんアルコール感が強く感じられました。
【考察】酒粕を「旨味」として活かすための黄金比
酒粕入りのチーズケーキを美味しく作る黄金比は、酒粕:クリームチーズが100g:150gという結果に。
酒粕を120gくらいでもいいのでは?とかずえさん。いつか、チャレンジしてみることにしました。
また、酒粕50gでは全体的にどっしりと硬めでしたが、100g以上ではしっとりしていて、食感も良くなり非常においしかったです。
次のステップ
次の研究テーマ(【酒粕-02】)を予告する
今回の研究で黄金比を見つけられましたが、酒蔵の課題解決のためには、このレシピだけでは不十分です。
今後はこの黄金比を活かし、さらに酒粕を美味しくする「隠し味」の検証や、別の万人受けスイーツの開発に挑戦していきます。
酒粕をただの「処分品」ではなく「地域の宝」に変えるため、私の研究は続きます。