「歳をとったら、食べることしか楽しみがないから、おいしい食事を出してあげて!」
管理栄養士として特別養護老人ホームで働く中でよく言われますが、おいしい食事を出したくても、食事形態によってはおいしくない場合もあります。
飲み込むことが難しい人には、ソフト食・ミキサー食・ゼリー食など形態を考慮して提供することになります。
しかし、おいしくないと利用者によっては食べて頂けないことも少なくありません。どんなに認知症状が強い方であっても。
できれば、ソフト食・ミキサー食・ゼリー食を提供する利用者が少しでも減ってほしい。
この記事では、おいしいと感じる要素や、嚥下食がどのように作られているのか、嚥下力低下の原因を解説します。
いずれ来る老後に向けて、是非、最後まで読んで介護食を深く理解してみませんか。
おいしいと感じる要素とは
正直言って、ソフト食っておいしくないんじゃない?そう思っている人は多いかもしれません。
正直言って、すべてがおいしいわけではありません。
料理の見た目は味や香りと同じように、食欲を刺激する重要な要素です。
そして、それ以外にもおいしいと感じる重要な要素があります。
食材や料理ごとにおいしい硬さがある
例えば、ブロッコリーをゆで過ぎてボロボロにしてしまった経験はありませんか。
ブロッコリーをおいしいと感じる硬さは、個人差はありますが、適度に歯ざわりが残ったほうがおいしいと感じます。
ゆで過ぎてやわらかすぎるブロッコリーは、おいしくありません。
それと同じで、ソフト食・ミキサー食・ゼリー食も、すべての食材が本来の硬さよりやわらかくなります。
食材には、ごはんやいも類などやわらかいもの、肉や魚などの蛋白源、れんこんやたけのこなど食材によって硬さに違いがあります。
この食材の硬さを「物性」というのですが、食材によっておいしい硬さがあるのです。
また、揚げ物は表面が硬く、サクサクした食感がおいしいわけです。そして、茶わん蒸しはやわらかいからおいしいのです。
このように、若い頃に食べた料理の食感は私たちにすり込まれ、年齢を重ねても認知症になっても変わりません。
たとえ、とんかつをやわらかくして、衣をつけて揚げても、その人にとっての「とんかつ」ではない場合があります。
やわらかすぎると食事摂取率は低下する
普通食が一口大へ、そして刻み食へ徐々に変更されます。ここまでは、比較的スムーズに食べて頂けます。
ここからさらに、嚥下機能が低下するとソフト食へと移行することになります。
ここで、急に食事摂取率が低下することがあります。原因は、明らかに、まずは見た目の問題があるでしょう。
そして、食感の問題です。すべてがやわらかすぎるのも、物足りないものです。
したがって、いつまでも元気にいるためには、できるだけ食事形態は落とさないことが重要になります。
嚥下食に必要なのは安全性
ソフト食やミキサー食、ゼリー食は、そうおいしいものではないかもしれません。
しかし、だからといって、嚥下機能が低下した人が普通食を食べるのは非常に危険です。
誤嚥のリスク
誤嚥すると、ムセて食べ物がのどに詰まりかけていることを知らせてくれます。
食事介助をしていて、ひどいムセをおこすと、介助するほうものどに詰まらせそうで怖いです。
誤嚥は、命に関わることがあるので、注意が必要です。
誤嚥のリスク
- のどに詰める
- 誤嚥性肺炎
嚥下力は全身の筋力と比例する
食べ物を飲み込むには、まずは歯でよく噛み、唾液と混ぜながら食べ物をドロドロにし、のどの筋肉によって飲み込みます。
そうです。のどは筋肉でできています。筋肉なので、正しく使わないと、弱ってしまいます。
嚥下力の低下は、こののどの筋力の低下が原因のひとつです。そして、嚥下力は全身の筋力と比例すると言われています。
嚥下力を維持することで、いつまでも普通食を食べ続けることができるのです。
ある研究結果では、離床時間を1日4時間以上にすると、四肢骨格筋量と摂食嚥下機能が維持される。
また、離床時間を1日6時間以上にすると、四肢骨格筋量と体幹の筋肉が多く、常食に近い食事を食べることができることが分かりました。
出典:東京医科歯科大学「要介護高齢者の離床時間、全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関連」https://www.tmd.ac.jp/press-release/20220415-2/
ソフト食やミキサー食を食べるのは、対症療法であり、全身の筋力維持は、根本療法であると言えないでしょうか。
介護食レシピ集
介護食を美味しく食べることができるレシピを紹介します。
ソフト食
【はんぺん焼き】
はんぺん焼きの作り方
(材料)10個分
- はんぺん...100g
- 木綿豆腐...150g
- 片栗粉...大1・1/2さじ
- 枝豆...30g
- 干しエビ...5g
- 干ししいたけ...3g
- コーン缶...10g
- しょうゆ...大1/2さじ
- 顆粒だし...2g
- 油...適量
(手順)
- 干ししいたけは水で戻し、みじん切りにする。枝豆、コーンをみじん切りにする。
- ビニール袋にはんぺんと木綿豆腐を入れ、揉みながら合わせていく
- 2に枝豆、干しエビ、戻したしいたけ、コーン缶、しょうゆ、顆粒だしを入れて混ぜる
- フライパンに油をひき、3を両面焼く
ソフト食とは、刻み食が難しくなったばかりの人から、嚥下力がかなり低下し、ミキサー食が必要になる人まで、適応の幅が広いと感じます。
このレシピは、やわらかめの野菜などは問題ないが、肉や魚など硬いものの咀嚼・嚥下が難しくなった人にピッタリだと思います。
そして、家族も一緒に同じものが食べられるでしょう。別メニューを作るのは非常に手間がかかるので、使い勝手のよいレシピです。
ミキサー食
【かぼちゃのポタージュ】
かぼちゃのポタージュ
(材料)2人分
- かぼちゃ...250g
- たまねぎ...60g
- バター...10g
- 牛乳...200cc
- 水...60cc
- 塩コショウ...少々
(手順)
- かぼちゃは皮を切り落として2〜3cm角に、玉ねぎは薄切りにする
- かぼちゃ、玉ねぎをバターで弱火でじっくり炒める
- 水を加えてやわらかくなるまで煮る
- 3をミキサーにかける
- 鍋に4と牛乳を入れて火にかけ、塩コショウで味を調える
ゼリー食
【簡単茶わん蒸し】
簡単茶わん蒸し
(材料)
- 卵...1個
- 白だし...大さじ1.5
- 水...150ml
- 絹ごし豆腐...50g
(手順)
- 卵を割り、水と白だしを合わせる
- 水切りした絹ごし豆腐を器に入れ、1を流し入れる
- ラップをし、600Wで5~6分加熱する
ゼリー食は、比較的甘いものが食べやすいようです。食事の最初に甘いものを勧めると、おかずの摂取もスムーズにいくことが多かったです。
茶わん蒸しは、おかずとしてのおいしいゼリー食としては珍しいかもしれません。
嚥下食に困ったら市販品で試してみよう
私が大学生の頃には、すでに日常の食事に困っている高齢者はおられたようです。
当時の新聞記事で印象的なものがありました。普通食が食べにくくなった高齢者の話です。
薬局で離乳食を購入して食べているが、高齢の自分が離乳食を購入するのは恥ずかしい...という内容。
今では、品揃えの豊富な介護食がいつでも手に入ります。
初めて介護食づくりに不安を感じる人、自分に合った食形態を見極めたい人は、市販品のお試しをおすすめします。
まとめ
- ソフト食やミキサー食がおいしくないと感じるのは、その食材が最もおいしい硬さではないから
- 嚥下力が低下した人に提供する食事で一番大切なことは、安全性
- いつまでも食べたいものを食べたければ、全身の筋力を維持することが必要
- 離床時間が1日4時間以上の場合、四肢骨格筋量と摂食嚥下機能が保たれる
- 離床時間が1日6時間以上の場合、四肢骨格筋量と体幹の筋肉が多く、常食に近い食事を摂ることができる
いつまでも食べたいものを食べるには、体を動かし、嚥下力を維持する必要があります。
機会があれば、ソフト食やミキサー食を体験してみてくださいね。